interview
ホンマタカシ「見えてる部分は本体ではない。」
2018.09.08 Thu 15:57
フリーペーパー「太宰府自慢」4号に掲載されたホンマタカシさんの記事を再掲します。
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身体を持った写真家
この日、ホンマタカシさんは七回目の宝満山登山をすることになっていた。現在、太宰府天満宮アートプログラムに向けての作品づくりの真っ最中。「七曜日すべて宝満山に登って写真を撮る」ことの最終日。日曜日。あいにくの雨模様だったが「森の中に入れば、そんなに気にならないですよ」と、静かに森の中に足を踏み入れる。
宝満山は、太宰府市と筑紫野市にまたがる、山頂に竈門神社の上宮をいただく霊峰。福岡県民にとっては、「親しみやすい、けれどハードな」登山の山としても知られる。
まるで音が森に吸い込まれてしまったかのような道の途中で、ふと足を止める。撮影の準備が始まる。ホンマさんの視線の先には、キノコ。カシャ、カシャ。二度シャッターが切られる。あっという間に撮影は終わり、また山道に戻る。機材を担いでの登山。ホンマさんは、途中木立に掴まらないと登れないような急斜面も、ひょいひょいと身体を運んでいく。山にしか見えなかったところに、キノコを見出す。
ホンマさんの写真に強く感じるコンセプチュアルな要素。そのコンセプトを形にするために、強い身体性が伴っていることに、改めて気付かされる。
見えないものを見る
「日本の伝統のようなものには全く興味がなかった」というホンマさん。「それが最近、日本のものもいいと思うようになってきた」。そのタイミングで持ち上がった、太宰府天満宮アートプログラムの話。古い時代に大陸から文化が流れ込んできた土地で、いま現代アートに取り組んでいるのは面白いと感じたそうだ。「それに、みんなあまり東京の方を見ていないのもいい。僕自身は東京のどまんなかで仕事をしていて、そのストレスフルなところを楽しんでもいるんだけど、そうじゃない場所も必要だよね」。
九月に行われた天満宮の神幸式。真っ暗な中で、道真公の御霊を御神輿に移す神事を見て、「あれは、最高のコンセプチュアルアートでした。神職さんたちが、『目に見えない』御霊に向かう仕草が、まるで『見えている』かのように、思えるんですね。まるでパフォーマンスしているようだった」。かねてからホンマさんの中で大きな関心だった「見えないものを見る」というテーマが、神社という場所を得て必然性を増した。「僕は最初からテーマを決め込んで、用意周到に作りこんでいくタイプだと思われているけど、実際には出会ったものによって変えていくことも多いんです」。
山でホンマさんがつぶやいた、「キノコの見えてる部分は本体じゃないんだよね。菌糸は見えない」という言葉を思い出した。あの時もホンマさんは、「見えないものを見る」ことについて、考えていたのかもしれない。
文・浅野佳子(nico edit)
©️Takashi Homma
ホンマタカシ Takashi Homma
1962年生まれ。1999年、写真集『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(光琳社出版)で第24回木村伊兵衛写真賞受賞。2011年から2012年にかけて、個展「ニュー・ドキュメンタリー」を日本国内三ヵ所の美術館で開催。著書に『たのしい写真よい子のための写真教室』、近年の作品集に『THE NARCISSISTIC CITY 』(MACK)、『TRAILS』(MACK)がある。また2019年に『Symphony その森の子供 mushrooms from the forest』(Case Publishing)、『Looking Through Le Corbusier Windows』(Walther König, CCA, 窓研究所)を刊行。現在、東京造形大学大学院 客員教授。