interview

ライアン・ガンダーの語る「神道とアート」

2018.09.08 Thu 14:23

フリーペーパー「太宰府自慢」4号に掲載されたライアン・ガンダーさんの記事を再掲します。

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神道とアート

イギリス人のライアン・ガンダーさんにとって、神社も神道もまったくの未知のもの。「一年半くらい、読んだり、考えたり、神社へ足を運んだり、参拝者に話を聞いたりして、神道についてリサーチしました」と話す。「だんだん神道とコンセプチュアルアートには、たくさんの共通点があると思うようになりました。接するだけでは理解できない。でも時間をかけてエネルギーを使って理解しようとすると、分かってくるんです。まるで思考が進化するみたいに」。

ある日ガンダーさんは、御本殿で神様に手を合わせる参拝者を見て、見えない神様に祈る不思議を感じる。さらに、御本殿の奥に、御祭神の直系の子孫しか入れない隠された部屋があると聞いて、「それはすでに過去につくられたアート作品のようだとも感じました」。大切なものは目に見えるものばかりではないと、どうやら神道では考えられているようだ。
そこから、ガンダーさんの発想は大胆にユーモラスに「ジャンプ」する。

Consequence of evidence ©Ryan Gander, 2011 Courtesy of TARO NASU

不在を信じる

例えば、「Conseguence of evidence」と題された作品は、破壊された展示ケースのインスタレーション。ガラスが割られ、中にあるはずの天満宮ゆかりの脇差がなくなっている。実は、脇差は昭和四十九年に盗難にあい、天満宮から既に失われていたもので、不在が明らかになった形だ。作品の向こうから、まるで作家がウィンクしているようだ。「あることが大事なの? それともあったと信じることが大事なの?」

全ての作品がこんな調子。ガンダーさんの手にかかれば、言葉にしていなかったふるまいや気持ちが逆照射されて、驚くような形で目の前にならぶ。

それはガンダーさんにとっても同じだったようで、「天満宮での経験は、いままさにメキシコやニューヨークやパリで制作している作品に作用していると、はっと気づくことがあります。まるで、神道の影響を世界中連れて回っているみたいな感じ」。

Photo by Kenji Takesue

文・浅野佳子(nico edit)

Photograph: Julian Abrams

ライアン・ガンダー Ryan Gander

1976年イギリス生まれ。ロンドン・サフォークで活動。コンセプチュアル・アートの旗手として世界のアートシーンで注目を集める。「墜ちるイカロスー失われた展覧会」(メゾンエルメス,東京,2011)、「Make every show like it's your last」(ヨーロッパ・アメリカ巡回,2013-16)、「ライアン・ガンダー-この翼は飛ぶためのものではない」(国立国際美術館,大阪,2017)、「われらの時代のサイン」(東京オペラシティアートギャラリー,2022)など個展多数。「第54回ヴェニス・ビエンナーレ」(イタリア,2011)、「Our Magic Hour」(横浜トリエンナーレ,神奈川,2011)、「ドクメンタ13」(ドイツ,2012)「Ouverture」(ブルス・ドゥ・コメルス,フランス,2021)など国際展に多数参加。