interview

サイモン・フジワラの語る「本物と偽物」

2018.09.08 Thu 15:43

フリーペーパー「太宰府自慢」4号に掲載されたサイモン・フジワラさんの記事を再掲します。

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本物と偽物

サイモン・フジワラさんは、境内に四つの「岩」を置いた。実は、そのうち三つはコンクリートでフジワラさんがつくったフェイクの岩だ。

フジワラさんは天満宮を訪れ、日本で古代から岩が強い意味を持ち、信仰の対象となってきたことに驚く。「それからぼくは、ほかの宗教の聖地のことが気になり始めました。すると、ストーンヘンジやカアバ、岩のドームなどたくさんあることに気がついたんです」。さらに、キリストの遺体が横たえられ香油を施された「塗油の石」が、多くのキリスト教徒たちが訪れ、くちづけ、衣服を擦りつける信仰を集める石であるにも関わらず、実はそれがレプリカであることを知る。「文脈だけが大切で、信じ続ける人がいることで、偽物は本物になっていくのです。突き詰めて考えると、本物も偽物も存在しない」。

The Problem of the Rock ©Simon Fujiwara, 2013 Courtesy of TARO NASU Photo by Sakiho Sakai (ALBUS), Junko Nakata (ALBUS)

千年残るもの

そうしてつくられたフジワラさんの岩は、太宰府天満宮と関係するそれぞれ異なるバックストーリーを持つことになった。そのストーリーに人々が共感することで、始まりはフェイクだった岩が、千年後には「聖なるもの」になっているかもしれない。わたしたちがいま目にする信仰の対象も、こうやって始まったかもしれないからだ。

「ぼくはこの岩に、太宰府のコミュニティと触れた息吹を吹き込みたかった。例えば、ひとつの岩には幼稚園児が手形をつけてくれました。この手形は、園児一人ひとりの記録でもありますが、一方で原始時代の洞窟壁画のように抽象的なものにもなりえるものです。ぼくは作品に千年残って欲しいと思っていますが、そんなことは予測できません。もし残ったとしたら、未来の人たちにこの作品はどう見えるのでしょう? 時間はどんどん流れて変化していきますが、ぼくは、いまこの瞬間に生きている特権を、作品に与えるパフォーマンスをしたかったのです」。

The Problem of Time ©Simon Fujiwara, 2013 Courtesy of TARO NASU Photo by Sakiho Sakai (ALBUS), Junko Nakata (ALBUS)

文・浅野佳子(nico edit)

Courtesy of the artist

サイモン・フジワラ Simon Fujiwara

1982年生まれ。
イギリス、ケンブリッジ大学で建築を専攻後、ドイツ、フランクフルト造形美術大学で美術を専攻。日本人の父とイギリス人の母を持つフジワラは、人類の起源や自分と家族の歴史にまつわる演劇性の高いパフォーマンス形式のレクチャーやインスタレーション、彫刻、ビデオ、創作小説といったその多様な媒体による作品で知られています。
2010年のフリーズ・アートフェアでは、若手作家を対象とするカルティエ賞を受賞。また、「Simon Fujiwara : Since 1982」(テート・セントアイヴス、イギリス、2012)、「Grand Tour」(ブランシュヴァイク美術館、ドイツ、2013)、「Who the Bær」(プラダ財団美術館、イタリア、2021)などの大型個展が開催される一方で、「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト」、「Imagineering Okayama Art Project、2014」、「Parasophia : 京都国際現代芸術祭2015」等、数多くの国際展に招待される。